― 先生は歯科麻酔の認定医でいらっしゃいますよね?患者さんに痛みを感じさせないテクニックがあったら、教えてください。
今の注射針は加工がいいから、そもそもあまり痛くありません。でも、注射針を刺すときに、針を刺しにいくのではなく、頬を手で引いて針を迎えてあげるようにするのです。そうすると、痛くなりにくいんですよ。
また、口の中には、いくつか痛点(痛みを感じやすいポイント)が集中しているところがあるので、そういったところも避けます。
それから、麻酔薬を注入するスピードも大事です。最近は、コンピュータ制御のものもいくつか出ていますが、あれは、一定のスピードで押し出しているのに過ぎない。私は、自分で注射器を手にもって、「これくらいの手ごたえだから、これくらいのスピード」と加減を調節するのが好きなので、使いません。コンピュータなんかより、自分の手のほうが信頼できると思っているから(笑)。
― 患者さんとの接し方で気をつけていらっしゃることはありますか?
芸人じゃないですけど、まず笑ってもらうことを大切にしているつもりです。ひどく緊張している状況で行えば、なにをやっても痛い。麻酔っていうのはそういうものです。
歯科麻酔学には「鎮静法」という手法があります。たとえば笑気ガスを使って緊張を取り払って処置を行うことを、「笑気吸入鎮静法」といいます。私の師匠は、「雰囲気鎮静」という言葉を使いました。どういう空気で来院された方をお迎えすることができるか。部屋の明るさ、匂いといったものも雰囲気に含まれるでしょう。
うちに入ってきて、薬の臭いがしないことに気がつきました?
― あ! そういえば病院独特のあの臭いがしません!
うちは、臭いがする薬は、必要なもの以外、極力おかないようにしています。それと、アロマポットを焚いています。
私の先輩が「見えないコスト」ということをおっしゃるんですよ。たとえば、治療に使う鏡やピンセットは、水洗いするだけでも咎められはしない。でも、うちでは、滅菌器にかけたものを一組ずつ滅菌用パックに入れて保管し、来院された方の目の前で開けています。そうするのにはコストがかかる一方で、対価はゼロです。しかし、とても大事なことだと考えています。
でも、こういったものは、一回導入すると、そうしないことのほうが、かえって不自然で、ことさら特別なことには思えなくなってくるんですよね。